日本記号学会ではこの5月に米沢の地で第27回目大会を盛況裡に開催することができました。著名なアーティストをお招きして〈写真〉という記号表現について縦横に論じた二日間はとても充実したものでした。その詳細については小池実行委員長(山形県立米沢女子短期大学)の報告をご覧いただきたいと思います。今回は、新たに本会を代表する役目を仰せつかった者として、会員の皆様にご挨拶を申し上げます。
2007年度より三年間、前会長・室井尚氏の跡をうけて会長の役割を担うこととなりました。精力的な活動を身上とする室井氏に比べ、どちらかというと「書斎の哲学研究者」と目されているに違いない私――年齢もひとまわり上の私が出る幕はないと思いつつ、これも何かの因縁と観念するほかありませんでした。任期中は本会の運営に全力であたってゆく所存です。どうか皆様の絶大なるご援助とご協力をいただきたくようお願いいたします。
私の専攻は〈哲学〉ですが、それがいったいどういう学問なのかについて絶えざる議論が続いてきました。(これも哲学という学問の特異な点でしょう。)終始一貫して誰も疑うことがなかった一点があるとすれば、哲学が〈全体〉にかかわる知的探究だということではないでしょうか。この哲学の性格はじつは記号学に深い親和性を有しているように見えます。なぜなら、思想史上、知的探究が〈全体〉を見失い専門主義の隘路に追い込まれそうになったとき、危機感を背景に登場したのがほかならぬ〈記号学〉だったと考えられるからです。たとえばロックがそうでしたし、とりわけパースにおいてこの事情が顕著に認められます。ソシュールの場合も例外ではありません。
実際に私たちの学会は、専門領域を超えた多彩な人材が一堂に会する場をなすという誇るべき特色を有しています。加えて、会員の各々が表現や制作の現場に就いているという点も大きな特色です。(念のため言うと、理論探究も表現ないし制作の営みにほかなりません。)本学会のこうした特色を機軸に据えて、今後、会長の役割として、本学会の活動にいっそうの活力を注ぐお手伝いをしたいと考えています。
しかし問題も山積しています。会員の皆さんに知っていただきたいのは、学会の財政状況がきわめて悪いということです。なによりも会費の納入率が低いことが財政の逼迫を招いています。岡本事務局長の懸命の努力で出費カットをおこなってきたものの、それもすでに限界に達しました。理事会で会費の値上げが話題になり始めているのも事実です。しかし、私としては、会費を改定するのは時期尚早だと考えます。会員の皆さんには、滞りなく年会費の納入をおこなうことが本会の維持にとっての要件である点を是非ともご理解いただきたく思います。
今年度から新たに二つの方策をとることを理事会で決定しました。第一は日本記号学会のホームページの充実です。従来は編集委員長が情報委員長を兼任していた点を改め、今回、情報委員長として植田憲司さん(京都芸術センター)に役割を担ってもらうことにしました。こうして専用のサーバーを使い独自のドメイン名のもとに本格的なホームページを制作できることになりました。ホームページを充実させるには会員の皆さんのご協力が必要です。ご自身の活動など本会に関連する情報を遠慮なく情報委員長へお寄せ下さい。それをコンテンツに盛り込むによって、会員の顔がたがいに見えるような学会にしたいものです。
第二は「研究プロジェクト」の公募を行います。本会では、故川本茂雄氏(フランス語学、言語学)の遺族からゆだねられた基金の相当額を温存しております。先日の理事会で議論をした結果、上記のように、会員の「研究プロジェクト」に対して助成金をこの基金から賄うことになりました。「研究プロジェクト助成」のカテゴリーをグループと個人の二つにするなど細目も決まりました(〈研究プロジェクト助成〉の欄を参照)。どうか企画をお持ちの意欲的な個人やグループは遠慮なく応募していただきたいと思います。この助成の試みが、年に一度の大会のほかに、たとえ小規模であれ、本学会の活動が各地域で行われている状況を作り出すための一助になることを願っております。
会員の皆さんのご協力を得ながら、本学会の活動にいっそうの活力を注ぎ込むことに努力を傾注することを再度申しあげて、私からのメッセージに代えさせていただきます。
菅野盾樹
2007年6月12日