2023年6月17日と18日、東海大学品川キャンパスにて日本記号学会第43回大会が開催されました。前年の追手門大学における大会も対面で行いましたが、企画セッションの登壇者を学会員に絞るなど、会員主体の交流の回復を念頭においていました。今回はその意味では4年ぶりの、「記号学会らしい」、幅広く各界からゲストを招いての開催となりました。プログラムの詳細は、Webに特設サイト https://www.jassweb.jp/43taikai を残しておりますので、ぜひ資料などをご参照ください。「仮面の時代」という全体テーマは、本学会の特徴である領域横断的な議論の「傘」となる役割を期待し、設けられました。「仮面=マスク」の存在は、もちろんその多義性において語られます。顔・表情の表象媒体であるとともに、「おもて―うら」「かくす―あらわす」「こころ―かたち」「みる―みられる」などのコントラスト、あるいはそれを成立させる時空間や環境の問題を語るトリガーとして、様々な関心のもとに置くことができるからです。また、コロナ禍とともに手放せなくなった経験も含め、その心理の現代性を語るキーワードでもありました。
三つの企画セッション(能面と中間表情をめぐって/ロボティクスと心/拡散する顔と過剰化する表情)は、前回大会で試みられた、各チェアが企画と進行を差配する形式が踏襲されました。はじめに「伝統芸能から発せられた問い」が、「情報技術」「ポピュラーカルチャー」の現場での議論に、微妙にすれ違い、ぶつかり合いながら手渡されていくという記号学会ならではのスリリングな展開が還ってきた――時間配分など、必ずしもすべてが「うまくいった」わけではありませんが、少なくともそう感じていただくことはできたのではないでしょうか。
研究発表も、前回大会に引き続き、会員のほかに非会員のエントリーをも受付け、二日間三会場計16名が新たな知見を披露し、活発な議論が繰り広げられました。はじめて学会発表を経験する人から、理事に名を連ねる大ベテランまでがプログラムに並び、この研究発表のスタイルも「開かれた学会」を多くの方に印象づけることにつながったのではないでしょうか。実際昨年も、この発表をきっかけに入会し、電子ジャーナルへチャレンジの歩みを進めた方もおり、できれば次回の大会でも、可能な限り仕組みとして続けていただければと思っています。
大会は、学会の柱となるイベントです。その意味で、年会費を払っていただいている会員の皆さんの参加費は無料(年会費に含まれているもの)としました。しかしその目論見においては少々意外な結果となり、100名を超える二日間ご来場いただいた方の半数以上が、一般の参加者でした。もちろんそれは告知、広報へのご協力の賜物であり、また予想外の参加費収入が得られたことも学会運営にとってはありがたいことではありましたが、せっかく年会費を払ってくださっている会員のみなさまにもっとご参加いただける大会は、どのように企画・運営をすべきか、課題も残したといえます。
理事会で承認され、大会(総会)で、次年度の第44回大会は、鹿児島大学で行われることが報告されました。大阪、東京、名古屋などの大都市を離れて、地方で開催するのは第35回(2015年)の秋田公立美術大学以来となります。前回、今回は対面にこだわりましたが、全国で活躍されている会員のみなさんの状況を考え、オンラインの手法も取り入れた地方ならではの開催のスタイルも検討していかねばなりません。一方、上半期発行のタイミングに戻せた学会誌も、どうやら資金的に次の号も予定通り出せそうです――第43回大会の企画セッションの様子は、そこでご確認いただけるかと思います。
いずれにしても大会は、日本記号学会の「あり方」を会員内外に示す大切なイベントです。今回の開催にあたりご支援いただいた全ての方に感謝を申し上げるとともに、今後の大会企画立案や運営方法についても、忌憚のないご意見を賜りたく存じます。
水島 久光(東海大学)