実行委員長 小野原教子
「黒いニュドの女 穴のあいた新聞紙をもちガラスのフィラメントのような声で喋る」
—北園克衛「improvised meditation」より—
2012年5月12日と13日、日本記号学会第32回大会を神戸ファッション美術館(六甲アイランド)にて開催いたします。今回の大会は「着る、纏う、装う/脱ぐ」と題し、「人はなぜ服を着るのか」という根源的にして深遠なる問いにあらためて取り組み、「衣服/ファッション」を「着ることと脱ぐこと」の両行為として考察していく、開かれた議論の場にしたいとおもいます。
人間はまぎれもなく動物ですが、衣服を着る動物です。服飾史のなかで衣服を着る根源的理由は一般的に三つ挙げられ、そのうち「身体保護」「身体装飾」は他の動物とも共有できる要素ですが、「羞恥心(恥の概念)」を抱くことは人間的な特徴だと言えるでしょう。社会が発展すると、性別、地位や階級、職業、人種や民族など集団のなかのアイデンティティを示す媒体としての衣服が、またファッショナブル=おしゃれの概念とともに新しさを一時的に絶対的価値に置く流行現象が生まれます。その現象が高次に記号化した現在では、フェティッシュな対象としての衣服や、コスプレなどに代表されるアイデンティティを遊ぶ、いわば目的としての衣服が登場します。他の動物たちとわたしたちを分かつのは、わたしたち人間の精神活動のなせる技ですが、その技を技とするのもまたわたしたち人間です。
衣服を記号論的に研究するという試みは、言うまでもなくロラン・バルトによるファッションの体系化を目指したストイックな方法とその仕事の存在を看過できません。ときに権威的で不自由なディシプリンの枠組みから逃れて横断的で挑戦的に身近な対象に迫ろうと試みた記号論/記号学の本来の精神をおもいながら、今大会では(世界のなかの)現代の日本で、文学、言語学、人類学、哲学、美学、社会学などで活躍される様々な研究者によるオープンな対話の場を提供できればとおもいます。またアカデミアとは一目相容れないような音楽界や仏教界で活躍される力強く新しい老練の知恵を拝聴し、また現代芸術の若い作家やパフォーマーの真摯で刺激的な表現行為からも学ぶ、着ることと脱ぐことをもっと自由に、自らのなかの動物性をもてあました、不安な現実の前に映るわたしたち人間のからだと再び組み合うための実験的な空間になることを願っています。
大会の詳しい内容は、別途プログラムをご覧ください。また美術館近隣の神戸ベイシェラトンホテルにて懇親会もございますので、奮ってご参加ください。
(日本記号学会第32回大会実行委員会)
日本記号学会第32回大会 「着る、纏う、装う/脱ぐ」
開催日:2012年5月12日(土)・13日(日)
会場:神戸ファッション美術館 第一セミナー室/第二セミナー室/ギャラリー
参加費:1,000円(資料代込)
1日目:5月12日(土)
13:00
会場・受付開始(学会員のみ)
13:30
総会(学会員のみ)
14:00ー16:45
実行委員長挨拶・問題提起 小野原教子(兵庫県立大学・現代ファッション)
セッション1「(人を)着る(という)こと」第一セミナー室
鈴木創士(フランス文学者/作家/音楽家)/幣道紀(曹洞宗近畿管区教化センター総監/妙香寺住職)/塩見允枝子(音楽家)/木下誠(兵庫県立大学・フランス文学)
17:00-17:45
企画パフォーマンス 西沢みゆき(新聞女)
18:00-20:00
懇談会(神戸ベイシェラトンホテル3階北野の間)
2日目:5月13日(日)
10:00-12:45
研究発表(※詳細は下部)
13:45-16:00
セッション2「なぜ外国のファッションに憧れるのか」 第一セミナー室
高馬京子(ヴィータウタス・マグナス大学アジア研究センター・言語文化学)/池田淑子(立命館大学・カルチュラル・スタディーズ)/大久保美紀(京都大学大学院/パリ第八大学・美学)/杉本ジェシカ(京都精華大学国際マンガ研究センター・マンガ研究)
16:15-17:45
セッション3 「〈脱ぐこと〉の哲学と美学」 第一セミナー室
鷲田清一(大谷大学・哲学) VS 吉岡洋 (京都大学・美学)
17:45
閉会の辞 吉岡洋
【研究発表 詳細】
分科会1 研究報告 第一セミナー室
10:00-12:45
司会:前川修(神戸大学)、松本健太郎(二松学舎大学)
1.田中敦(新潟大学大学院)
「凝結表現の共示義を用いた映像テクストの解釈」
2.山崎隆広(群馬県立女子大学)
「増村保造の戦争――三つの戦争映画から考える〈第三の意味〉」
3.齊藤愛(筑波大学大学院)
「東の女、西の男 ――「唐人お吉」伝説をめぐる各種メディア・文化の表象の比較」
4.中野恭子(四條畷学園短期大学)
「ポストモダンにおけるイタリア・ファッション・ブランドの象徴資本の構築」
5.大久保美紀(京都大学大学院・パリ第8大学)
「モビリティ概念と身体意識 〜現代の自己表象行為を特徴づけるもの〜」
分科会2 研究報告 第二セミナー室
10:00-12:15
司会:河田学(京都造形芸術大学)、吉岡洋(京都大学)
1.加藤隆文(京都大学大学院)
「インデックスとインディケイター ――生命記号論の具体的構想のために」
2.佐古仁志(大阪大学大学院)
「究極的な論理的解釈項」としての「習慣」をめぐる考察:パースにおける「共感」を中心に
3.乗立雄輝(四国学院大学)
「〈観念〉から〈記号〉へ」
4.増田展大(神戸大学大学院)
「身体鍛錬という身振り」