2022年9月17日および18日に追手門学院大学総持寺キャンパスを会場として日本記号学会第42回大会「記号論の行方」を開催いたしました。第40回大会(京都大学)と第41回大会(九州大学)はコロナウィルス感染対策などの観点からハイブリッド形式をとっておりましたが、本大会は全面的に対面形式となりました。第39回大会(早稲田大学)以来、実に3年ぶりのことです。
また、本大会はこれまでの大会とは異なる3つの試みを行いました。まず、セッションの改変です。通例の大会では各セッションのコンセプトに関連する専門家をゲストとして招聘しておりましたが、第42回大会はその方法を踏襲しませんでした。代わりに、コロナ禍の下、学会員の中で減じていた顔を合わせての議論の機会を回復すべく、また学会員間の「密な」意見交換を促進すべく、3つのセッション全てを学会員で構成することにしました。
セッション1「パンデミック以後のモビリティ」では、高馬京子会員の進行の下、遠藤英樹会員と高岡文章会員、また松本健太郎会員による報告とディスカッションがあり、モビリティ研究と記号研究との接点を参加者と共に探求していきました。21世紀に入り、私たちは人やモノ、資本、情報、データ、イメージ、観念、技術などの移動や循環が激化する状況下で生きてきましたが、他方で、動くことを躊躇させるCOVID19の猛威という経験もしてきました。その後、アフターコロナに入りつつある私たちにとって、これからのモビリティとはどのようなものなのか、この問いを記号研究との交差の中で多様なかたちでセッションでは議論されていきました。また、人新世という記号をある種の「風景」と見立てることから出発するセッション2「人新世の風景」では、増田展大会員が進行を担当し、瀧健太郎会員と佐藤守弘会員、さらには大久保美紀会員それぞれの報告と、登壇者間のディスカッションが行われました。さらには登壇者と参加者との質疑応答などを通じて、「人新世」という人間を超えた惑星レヴェルの視点に対して、視覚文化やアートをめぐる議論や実践はどのように応答するのか、その問いが議論されていきました。最後にセッション3「ケアする世界」では松谷容作会員がセッションを進めていき、とくに、メディアや言語、コミュニケーション、共感という視座から塙幸枝会員と水島久光会員による報告とディスカッションが実施されました。グローバル資本主義によって可視化され、拡大された格差社会や貧困社会、生きづらい社会のなかで、「ケア」という「他者」との関係概念を正面から検討し直すこと、このことがセッションでは主眼とされ、登壇者と参加者との間で緊張感のある議論へと展開していきました。
つづいて、ふたつ目の試みは非学会員による研究発表の実施です。開催に関するテキストにも記しましたように、記号学あるいは記号論は「記号を旗印として、諸々の分野を軽やかに駆け抜け、従来とは異なる姿で分析対象を明らかにしていく少々野蛮とも見える様子」が魅力的な実践です。よって、その方法論を背景とする、あるいは賛同していただけるのであれば学会員の是非は問わず議論する機会を設けたい。こうしたことより、大会校の特別企画のかたちでこの試みは実現されました。それにより、例年の倍以上の数(15名)の研究発表が行われました。
最後は託児所の設置です。より多くの方々に学会に参加いただけるように、大会中は外部の専門機関からベビーシッターを派遣いただきました。今後も多くの学会員(非学会員)が大会に参加できるよう、こうした試みは継続する必要があると思われます。
以上のように、今大会はコロナ禍での経験を生かし、大会の内容のみならず、学会や大会のあり方を再度見つめ直すようなものとなりました。上述した試みはさらに検証を加え、今後の大会や学会運営のさらなる糧になればと願っております。
最後になりましたが、このような大会を実現し、無事に終えることができたのも、全て学会員の皆様の多大なサポートのおかげです。心から感謝を申し上げます。
松谷 容作(追手門学院大学)