5月、6月に刊行されました学会員の著書を紹介します。1冊目は水島久光さんの著書『テレビジョン・クライシス』(せりか書房、2008年6月)、2冊目は青木貞茂さんの著書『文化の力』(NTT出版、2008年5月)です。著者からコメントとあわせてご紹介します。ぜひ、書店などでお手に取り、ご覧下さい。
水島久光『テレビジョン・クライシス』
せりか書房、2008年6月
ここ数年で、テレビの社会的ポジションは明らかに変わった。不祥事、不信、テレビ離れ。融合の名のもとに放送を呑み込もうと虎視眈眈の通信事業者。しかしそもそもメディアはこのようなパワーゲーム的文脈で語られるだけでいいのだろうか。本書は、過去5年間に起こったテレビ事件簿と様々な機関で実施された調査を読みなおすことから、記号環境としてメディア・システムをリ・デザインする視座を提案する。それは私たちと情報テクノロジーとの意味関係を、コンタクト(接触)次元から問い直す、実践的かつ思想的な冒険でもある。
青木貞茂『文化の力―カルチュラル・マーケティングの方法』
NTT出版、2008年5月
現在、これまでの日本の生活・消費文化を基本から問い直し、新たなパラダイムを提示することが真剣に求められている。特に、グローバルな文脈の中で日本独自の「豊かさ」と日本型生活様式の完成に貢献できる新しいマーケティング発想とノウハウが求められている。
そこで、本書において消費における日本の特徴を規定する深層の基底構造を原理的に明らかにしようとした。マーケティング、広告関連の専門書では、ヒットの要因をあくまで流行という短期的サイクルから分析してきた。あるいは、すぐれた企業のマーケティング戦略や、経営マネジメントとして捉えてきた。本書ではあえて、この点には直接はふれず、日本の消費、マーケティングがとるべき道について長期的観点から構造的に論じた。本書では、日本の消費について文化と歴史の観点から豊かさを「生活様式」として再検討し、五感全体に関わる生活のエスセティクス再編成に向けて第一歩を築くことを目標とした。
「マーケティング」と「文化」は、実務と教養という相容れない領域であった。しかし、文化パワーが台頭する現代において、水と油であった両者が融合し、新たな理論、思想が求められるようになった。ビジネスの世界にあって文化への理解とセンスが必要とされ、文化の世界にビジネス知識と発想が求められているのである。言い換えれば、文化全般についての教養力がビジネスパワーへとつながる時代になったということである。
本書は、このように分断されてきた「マーケティング」と「文化」の間の架橋となるものであり、記号、シンボルの視点に立って新たなマーケティング原理としての「カルチュラル・マーケティング」を提唱したものである。