2018年5月19・20日、名古屋大学にて、第38回大会を開催いたしました。レヴィ=ストロース「料理の三角形」やバルト『表徴の帝国』以来、記号論にとって食は重要なテーマでしたが、大会では、科学技術の進展や情報化を受けて大きく変化した現代の食について、哲学・人類学・ポピュラーカルチャー・昆虫食など、さまざまな視点から議論が繰り広げられました。
初日第1セッション「食の原点と現在」(司会:河田学会員)では、はじめに『食べることの哲学』を出版した檜垣立哉会員から、人間にとって食とは何か・食は自然か文化か・食べないという文化は可能かなどについて、特に「カニバリズム」と「食のネオリベラリズム化」の観点から、大会の基調となるお話をいただきました。続いてテクノロジーの人類学がご専門の久保明教氏(一橋大学)から、戦後から現在に至る日本の家庭料理の変遷について、長いネットワーク(食産業)と短いネットワーク(家庭生活)を繋ぎつつ切断する媒介項としての「手作り」の観念から論じるというユニークなお話をいただき、その後討論を行いました。
2日目午前中の分科会研究発表ののち、第2セッション「マンガが描く食——『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』と行為としての〈食べること〉」(司会:佐藤守弘会員)では、思想史・マンガ研究がご専門の吉村和真氏と『目玉焼き…』の作者おおひなたごう氏(共に京都精華大学)のご講演、そして(作り手・料理ではなく)食べる行為の表象をめぐって議論が行われました。手塚治虫『ロストワールド』における性と食に関する吉村氏の鮮やかな分析、おおひなた氏自身が『目玉焼き…』の一場面をスライドに合わせて朗読するなど、盛沢山の内容でした。
同じく2日目第3セッション「全体討論−食は幻想か?」では、はじめに建築家で情報科学芸術大学院大学ご出身の山口伊生人氏から、昆虫食のなかでも、山口氏が研究・実践している「ハチ(へぼ)追い文化」とその創造性について実際の映像を交えたご講演をいただきました。その後、元会長の室井尚会員に進行をお願いし、これまでの二つのセッションで提示されたさまざまな論点を含めた全体討論を行いました。室井元会長の絶妙な手綱さばきにより、それまでひたすら拡散していくかにみえた議論が見事に収斂していきました。その模様はいずれ学会誌で詳細にお伝えしたいと思います。最後に前川会長から閉会の辞をいただき、2日間に渡る大会は幕を閉じました。
地方開催にもかかわらず、会場にはかなりの数の非会員の方にお越しいただきました。忘れてならないのが、この地方の名物「天むす」に「料理の三角形」を重ねた河田学会員による粋なポスターで、道行く若人に「めしテロ!」と言わしめました。最後になりましたが、本大会の実現には、たくさんの方のご指導・ご協力をいただきました。この場をお借りして、厚く御礼申しあげます。
秋庭 史典 (名古屋大学)