オンラインワークショップ(2024/6/1)
「AI・ロボットとともにある共同体の倫理」
来たる6/1(土)に、応用哲学会・2024年大会(第16回年次研究大会)内企画の関連イベントとして、以下の共催ワークショップをオンラインで開催します。
【ワークショップの内容・要旨】
現在、AI(人工知能)やAIを搭載した身体を持つロボットが、社会のさまざまな場面に登場している。愛玩用のペットロボットやレストランの配膳ロボットなど、ロボットが人間の生活ととともにある光景は、もはや当たり前のものだ。さらに、生成AIを使用して背景作画や画像調整を行うアニメーター、AIによるシミュレーションを活用して妙手の考案に至る棋士など、AIの活用によって人間の新たな可能性が開かれるのではないかと期待される事例も現実のものとなっている。ただしその一方で、生成AIが人間の創造性を奪うのではないかとか、高度な汎用AIが実現すれば人類にとっての脅威になるのではないかといった懸念も根強く存在する。こうした状況を鑑み、本ワークショップでは、近未来に実現するであろうAI・ロボットが人間とともにある共同体において、AI・ロボットはどういう存在として受けとめるべきなのかを議論したい。特に、AI・ロボットを公共的な共同体を構成する主体として認めるためには、その主体の倫理的地位についての特徴づけが不可欠であろう。今回はこの点を軸に据えて議論を深め、さらにその先に想定される論点、すなわちAI・ロボットの美的主体としての地位、AI・ロボットの美的経験の追求や芸術的創造との関係についての考察へと至るための橋渡しとしたい。
まず、次のことを問うてみよう。すなわち、AI・ロボットと親友になることは可能か。可能だとしたら、そのAI・ロボットはどういう能力を備えている必要があるのか。出口康夫は近著『AI親友論』でこうした問題に取り組み、「道徳的判断ができること」と「死を恐れること」をそのための能力として指摘している。この議論を受け入れるにしても、そもそもAI・ロボットに倫理的能力が実装されるべきかどうかはオープンな問いのままであるし、実装されるべきだとしても、その倫理的能力の内実は人間のそれとは異なる形で構想されるという議論もありうるだろう。AI・ロボットと人間が親友になるかもしれない未来の共同体においても、これらのことが問われ続けるはずだ。こうした論点について、まずは出口と竹下が掘り下げる。
いっぽう、ロボット工学者の谷口忠大は、記号創発システム論を提唱し、この理論に基づいてロボットを設計する記号創発ロボティクスを推進している。記号創発システム論は、AI・ロボットと人間を含む多種のエージェントから構成される記号システムの中で新しい記号作用が創発してゆく(近)未来の共同体をも構想する、一種の社会システム論の性格を持っている。さらにこの理論は、古典的プラグマティズムの創始者であるチャールズ・パースの記号論を採用している点も特徴的だ。谷口は構成論的アプローチによるロボティクスを推進する。すなわち、人間が周囲の環境に適応して自身の意味体系を確立してゆく過程を、身体をもつロボットによりシミュレートし、人間とコミュニケーションがとれるロボットの実現をめざしている。この点で谷口の理論は人間とロボットの連続性を強調するものであり、出口のAI親友論とは親和的な面があるといえる。谷口は、こうした本ワークショップならではの関心を踏まえた上で、記号創発システム論について論じる。
ただし、AI・ロボットとともにある未来の共同体において、避けては通れない懸念がある。ネオプラグマティズムの旗手リチャード・ローティは、人間の感じる痛みを「C繊維の発火」として物理的に完全に理解するがその痛みの感覚については理解できない「対蹠人」という異星人の思考実験を持ち出しているが、AI・ロボットもそれと同様に、通常の意味では人間の痛みの感覚を共有しない存在であろう。さらに踏み込んで指摘すれば、少なくとも当面の間、AI・ロボットは人間の心の痛みを理解しない存在、つまりはある種のサイコパスとして私たちの共同体に参加することになるのではないか。AI・ロボットともにある共同体においては、そうした可能性を踏まえて倫理を構想する必要がある。こうした問題意識からすると、ローティの強調する感情教育や「残酷さ」に訴える議論は、AIやロボットに対して適用するには限界があるだろう。それに対して、ジョン・ロールズが提案するような正義の概念、すなわち道徳的な善悪とはいったん切り離したうえで構想される公正な社会のあり方は、有望な道筋であるのかもしれない。さらに、ローティとは一線を画した「新しいプラグマティズム」を推進するシェリル・ミサックは、パースの探究の共同体理論を独自の手法で現代風に読み替え、倫理や政治の分野において真理を探究する態度が有効でありうるのだと主張している。ミサック流の真理概念は、探究の導きとなる統制的想定として構想される特殊な位置づけのものとなるが、本ワークショップの関心からすると、彼女が思い描く倫理的な真理探究の共同体にAI・ロボットを含める未来についても構想してみる必要があるだろう。朱と加藤は、こうした政治哲学や新しいプラグマティズムの思想を念頭に、未来の共同体の倫理について構想する。
本ワークショップは、以上のような考察や関心を念頭に、議論の対象をAI倫理の分野でこれまで論じられてきた事柄に限定せず、幅広く政治哲学ないし倫理学の議論を踏まえ、AI・ロボットと人間がともにある共同体のありうべき姿を構想するものである。この探究活動は、AI・ロボットと人間という別種の主体のあいだで実現しうる未来のマルチエージェント社会についての、一種のマルチスピーシーズ人類学を構想する営みともいえるだろう。
【開催概要】
- 出口康夫(京都大学)
- 竹下昌志(北海道大学)
- 谷口忠大(京都大学)
- 朱喜哲(大阪大学)
- 加藤隆文(大阪成蹊大学)
https://zoom.us/j/92859285094?pwd=SWFnU2VwZk9LVXM4ayt2NDgwOWU3QT09
ミーティング ID: 928 5928 5094
パスコード: 924106
- 13時30分〜:上記会場にて各発表動画を上映
- 15時00分〜16時30分(目安):発表者・来場者によるディスカッション
【問い合わせ先】
【共催】
- 立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)
「記号創発システム科学創成:実世界人工知能と次世代共生社会の学術融合研究拠点」 - 日本学術振興会 課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業 学術知共創プログラム
「よりよいスマートWEを目指して」(Smart WEプロジェクト) - 日本記号学会「情報技術とプラグマティズム研究会」