日本記号学会第46回大会(2026/7/11・7/12)「パース記号論のフロンティア」特設ページ

日本記号学会第46回大会
「パース記号論のフロンティア」

2026年7月11日(土)・12日(日)
会場:二松学舎大学(東京千代田区・九段キャンパス)
https://www.nishogakusha-u.ac.jp/about/campus/a7.html
学会員・非学会員問わず当日現地でどなたでも自由に参加できます【非学会員参加費:1,000円(※学部生以下無料)】


開催にあたって
大会実行委員長:谷島 貫太(二松学舎大学)
概要
 チャールズ・サンダース・パースの記号論は、21世紀の今日、人文科学から社会科学、自然科学に至るまで、実に多様な学問領域で「概念的なエンジン」として機能し続けています。その理論的射程の広さと解釈の多様性こそが、パース記号論の尽きない豊かさの源泉であると言えます。
 しかし、各領域での発展がそれぞれに深化する一方で、異なる分野で培われた独自のパース解釈や応用実践が、分野横断的に共有され相互に参照される機会は必ずしも多くありません。この現状認識に基づき、本大会では「パース記号論のフロンティア」をテーマとして掲げ、パース記号論を羅針盤として探求を続ける各領域の現在進行形の試みを一堂に集め、その最新の展開と未来の可能性を共有することを目指します。
 各テーマごとにチェアを立て、専門的な議論を深めると同時に、他分野との積極的な接続を試みます。本大会が、異なる文脈で発展してきたパース記号論の各系譜を交差させ、新たな知の<火花>を生み出す創造的な場となることを目指します。


  • 企画セッション
    大会1日目(7/11)
    1. セッション①:生命と目的の記号論
      釜屋 憲彦[生物学](北海道大学)
      堀井 隆斗[ロボティクス](大阪大学)
      ・【チェア】佐古 仁志[生態学的心理学](東京交通短期大学)

      関連分野:生命記号論、生態学、情報科学/ロボティクスなど

       本セッションでは、原生生物、人間、ロボットがこの同じ世界においてどのような記号過程を営んでいるのか、さらには、環境や周囲の個体群とどのように絡まり合いながら生きのびているのかについてのあらたな視座を探る。佐古の発表では、人類学者エドゥアルド・コーンによるパース記号論の人類学的な展開を参照しつつ、原生生物、人間、ロボットが、環境や周囲の個体群と絡まり合うことであらたな目的を創発しながら同じ世界をどのように「ともに生きている」のかを問うていく。
       釜屋の発表では、これまで比較的単純な刺激応答や化学的コミュニケーションとして捉えられることが多かった原生的な生命の記号生成について、多様な種を対象とした近年の原生生物の行動研究からは、神経系をもたない生物であっても、他個体と空間を共有するなかで、行動を柔軟に変化させることが明らかになっている点に注目する。特に、繊毛虫ラッパムシなどの行動事例を手がかりに、空間共有という相互作用的文脈が新たな記号過程を生成するメカニズムを検討し、神経系に依存しない記号生成の固有の論理を浮かび上がらせることを試みる。
       堀井の発表では、これまで個体内部の認知・表象の問題として論じられることが多かったシンボルや記号の獲得について,認知発達ロボティクスや構成論的アプローチの観点から、身体性を基盤とした他者・環境との相互作用の文脈において立ち上がるダイナミックな過程として捉える。特に、乳児と養育者の間に見られる共同注意や社会的アロスタシスといった事例を手がかりに、親子間相互作用を通じたシンボルの立ち上がりとその計算モデルについて論じる。さらに、異なる環世界を有する他者・他種・ロボットとの共棲という文脈に視点を拡張し,環世界のすり合わせやカップリングを通じた記号創発の可能性、および人とロボット、人以外の生命とともにある共同体の倫理について議論を展開する。
      (佐古)

    大会2日目(7/12)
    1. セッション②:生活と道具の記号論
      小林 茂[技術論](IAMAS)
      松本 直⼦[認知考古学](岡⼭⼤学)
      ・【チェア】加藤 隆文[プラグマティズム](大阪成蹊大学)

      関連分野:技術哲学/プラグマティズム/認知考古学/Material Engagement Theoryなど

       私たちは日々、生活を営んでいる。朝が来ると、昨晩セットしたアラームの鳴動によって目覚め、洗面台へ赴く。蛇口をひねれば顔を洗うのにちょうどいい温度の水が出てきて、口腔内を清潔にする道具も揃っている。お茶碗としゃもじを手に炊飯器を開けば、これまた昨晩セットしておいた通りにお米が炊きあがっている。冷蔵庫を開けて、ご飯のおともを物色する。漬物にしようか、佃煮にしようか。ところで今日の予定はどんな感じだったかな、とスマートフォンを手に取り、スケジュール管理アプリを起動する━━これらのどれをとっても、本当に何気ない、翌日には記憶にも残っていなさそうな、ありふれた生活の一幕である。しかし、忘れてはならない。これらの行動のひとつひとつが可能になっているのは、人類が長い時間をかけて産みだしてきたひとつひとつの道具のおかげであり、さらには、それらの道具たちによって構築されたシステム、いわばテクノロジーの体系が背後で適切に機能しているおかげなのである。
       人間がこのように滞りなく生活を営めている状況を、一種のニッチ(生態的地位)構築が成功している状態と捉えてみることにしよう。さて、そうしたニッチ構築は、これまでどのように為されてきたのか。そして、今後はどのように為されうるのか。そう考えると、このニッチ構築のプロセスの中で、人間も変容しているという可能性に思い当たる。つまり、人間の心、身体、ひいては人間という存在は、ニッチ構築を経て、たとえば新たな感性が開かれたり、個と共同体との関係が更新されたりして、これまでとは別様の何かに生まれ変わっているのではないか。
       認知考古学者の松本直子は、いわゆる「出ユーラシア」などの契機に伴うニッチ構築の中で、物質と人間の心と身体の相互作用によっていかにして文化が生まれてきたのかを解明してきた。電子楽器設計の経験からテクノロジーと表現行為の関係に関心を寄せてきた小林茂は、アンリ・ベルクソン=平井靖史の時間論を援用し、〈未完了相〉へと開かれる中でテクノロジーは新たな可能性を示すと論じる。本パネルセッションでは、こうした松本氏と小林氏の両名を迎え、かつ、日本記号学会ならではのチャールズ・サンダース・パースの記号論のアイデアを参照することにより、道具を用い、テクノロジーの体系とともに生活の営みを編みあげてきた人間が、これまでどのような変化を経験し、今後どのような変化の可能性があるのかを問い直したい。
      (加藤)

    2. セッション③:出来事と社会の記号論
      榎本 剛⼠[⾔語⼈類学](大阪大学)
      ⼟元 哲平[⽂化⼼理学](⽴命館⼤学)
      ・【チェア】野澤 俊介[⾔語⼈類学](北海道⼤学)

      関連分野:言語人類学/社会言語学、文化心理学、キャリア教育など

       私たちの社会生活にはさまざまな記号過程が関わっている。その記号過程を具体的な実践や文脈のレベルで捉えるためには、記号の「意味」を追求するよりも、記号が生起する場において「なにが為されるのか」という問いを前景化する必要がある。そのような「為されること」の輪郭を、ひとまずは、「出来事」と素描してみよう。
       アーヴィン・ゴッフマンが喝破するように、この出来事についての問い––––いま・ここで何が為されているのか、〈いま・ここ〉はいつ始まり、どこで終わるのか、〈あなた〉と〈わたし〉はお互い何モノなのか––––は、極めて日常的な経験に関わるものである一方、果てしなく遠大で、根源的にコンティンジェントな問いでもある。それは、人々が参画するさまざまな社会生活の場面において、その参与者たち本人にとって懸案であり続ける「動く標的」だからだ。日々のやりくり、人生における諸々の決断、言語の存続、国家紛争、人類の発展、地球の行く末。人々はどのような記号資源を動員することで様々なスケールの社会的時空間をアクチュアルな、〈いま・ここ〉の事件・懸案として、体験し、感じ、語るのか。その体験・感じ・語りの(コン)テクストのなかに立ち現れる葛藤や妥協、共鳴や反発、逡巡や暴走、想起や忘却といった多彩な分岐点には、どのような社会的諸力が作用するのか。
       「生起するもの」としての記号は、チャールズ・サンダース・パースの記号哲学において分岐、驚き、衝突、他性、注目といった事象を包摂する「第二次性」のカテゴリに関わっており、この第二次性的な観点、生起する「記号の視点 (a sign’s-eye view)」は、社会と出来事の関係を探るにあたって重要な分析の現在地となる。社会をダイナミックな記号過程として考察するそのような姿勢は、文化心理学や言語人類学といった領域において重要な役割を担っている。本セッションでは文化心理学者の土元哲平氏、言語人類学者の榎本剛士氏を迎え、アクチュアルな出来事に投錨される言語・身体・モノなど多様な記号の働きの分析を通して、文化的規範や共同体の動態といった複雑な社会過程を解明するための新たな視座を探る。
      (野澤)


  • 研究発表
    学会員および非学会員による研究発表(分科会) 大会1日目(7/11)および2日目(7/12)
    ※発表内容は大会テーマに関連したものに限りません